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硝酸カリウムの付着している部分だけがよく燃えて、炎が文字や絵をなぞるように進んでいきます。まるでカタツムリかヘビが這うがごとく、紙が燃えた後の軌跡が残るというもの。

「動 画」硝酸カリウムを付着させた部分がよく燃える

□かなりの煙が出るので、十分な換気が必要。残った紙切れや線香は、水にぬらして、火が完全に消えていることを確認してから廃棄します。

「解 説」

1.反応速度を決めるもの:硝酸カリウムの付着している部分に炎が文字をなぞるように進んで、紙が燃えた後の軌跡が残ります。小さな炎も出ますが、紙には延焼することがないので、試薬が付着している部分だけがよく燃えているということが視覚的に理解できます。よく燃える=紙が酸素と結びつきやすい、すなわち反応速度が大きくなる理由を考えてみます。反応速度を左右する要因は、まず温度です。温度が上昇すると、反応に関係する原子や分子などの粒子の熱運動が高まり、お互いの衝突回数が増加します。おおざっぱですが、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になるとも言われます。次の要因は、反応に関与する物質の濃度です。濃度が高ければそれだけ反応粒子の衝突回数が増大するように、濃度は温度についての粒子運動の結果と同様の効果を発揮します。また、触媒の存在も反応速度に関係します。一定の粒子が反応を継続するためには、越えなければならないエネルギーのハードルがあります。活性化エネルギーともいわれ、そのハードルを低くして、与えるエネルギーが少なくても済むような働きをする物質が触媒です。化学反応の前後で反応式上は物質量的な変化はありませんが、化学反応全体の速度に大きな影響を及ぼす要因となることがあります。

2.硝酸カリウム:実験で用いている硝酸カリウムは、化学式 KNO3 で表される硝酸塩の一種であり、天然に産出するものではチリ硝石が古くから知られています。水溶液の温度による溶解度の差が大きい(80℃で169 g 20℃で31.6 g)ため、溶解度差を利用して精製(再結晶法)がしやすい物質でもあります。また、工業的には、天然の硝石に含まれる不純物(塩化ナトリウムなど)に塩化カリウムを通じておき、より溶解度の小さな塩化ナトリウムを析出させるという方法で生産されています。

KNO3  → K+ + NO3 ・・・①

NaCl → Na+  + Cl ・・・②

KCl  → K+ + Cl ・・・③

塩化カリウムの追加(③)によりCl の濃度が高まると、共通イオン効果によって①は左に平衡移動して、硝酸カリウムの析出が進むということになります。

3.火薬の代名詞:古くから火薬として知られ、ハーバー・ボッシュ法の窒素の固定化による大量の製法が確立されるまでは、火薬を代表する物質でした。実験では、線香の火を用いていますが、硝酸カリウムは、比較的低温でも亜硝酸カリウムと酸素に分解します。もちろん、硝酸カリウム自体が燃えるのではなく、近くに存在する燃料源となる有機物などの燃焼を助ける役割を果たしているのです。密閉した容器内でも、酸化反応を助けるので、反応によって生じた酸化物(気体)が大きな体積であれば、爆発に至ることもあるので、扱いは十分にな注意が必要です。

 2KNO3  → 2KNO2  + O2 ・・・比較的低温の場合

◇実験タイトル」炎で文字や絵を描く

◇サブタイトル:もじもじ焼き文字

◇キーワード:熱分解 電解質 酸素 燃焼 反応速度


▽このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、実験材料・操作、解説の一部を非公開にしてあります。操作に一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。


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