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アルミ缶を蒸気で満たしておき、逆さにして水面に触れさせます。すると、蒸気が一気に凝縮して液体に戻り、缶は外圧(大気圧)を受けてつぶれてしまいます。手を使わずにできる空き缶つぶしですが、気体→液体への劇的状態変化の観察から、水という化合物について考えるヒントが得られます。

「動 画」空き缶が一気にぺしゃんこに

□大きな音をともなってぺしゃんこになる。腕力ではなかなかこのようなつぶれ方はしない。

「動 画」実践記録映像

□缶を斜めにしたり水中に入れすぎると蒸気が冷えてしまうので、素早く上方からフタをするようにすると良い。 水は、5 mL程度で十分で、それ以上入れても蒸気の量には変わりなく、沸騰までの時間を要するだけである。

「解 説」
1.   大気圧で缶がつぶれる:水が熱せられて沸騰している状態での空き缶内部の蒸気圧は、外圧である大気圧に等しく、1.013×10Paとなっています。しかし、加熱をやめて素早く水槽の水に触れさせると、一気に蒸気圧が低下するため、大気圧と缶内部の圧力には大きな差が出てしまいます。結果、空き缶は、外側からの圧力に耐えきれなくなってつぶれてしまうというものです。長めの500 mL缶を使うと側面からの力をまともに受けるので、まるで使い終わった後の歯磨きチューブのような形になります。一方、小さめの空き缶の場合は、上下からの力の影響が大きく、縦に縮む感じでつぶれるので面白いです。ちなみに、気圧の単位の表し方は異なる場合があるので注意が必要です。(1.013×10Pa = 760 mmHg = 1 atm = 1013 hPa )

2.  実在の物質だから三態の変化が起こる:理想気体という考え方があります。圧力一定下で、温度を2倍にすれば体積も2倍、温度一定下で、体積を1/2にすれば圧力は2倍に、というようにボイルシャルルの法則とそれを延長した気体の状態方程式が成り立つ理想の気体のことです。しかし、実在の気体は、原子・分子などの粒子自身の体積や質量、粒子間の相互関係が複雑にからんでいて、先述のような法則は厳密には成立しないのです。固体や液体という状態をとるので、もとより「気体」の状態を問うことができない場合も少なくありません。実験では、水の状態変化を劇的な形で取り扱いましたが、水分子間の相互作用の大きさが如実に表れる現象だということが理解できます。

3.   水分子は極性分子:水分子は、水素2原子と酸素1原子の共有結合により構成され、2本の価標(-OH)の角度が104.5度で、直角よりやや広い角度で結合しています。水素-酸素間の電気陰性度の差により、共有電子対がやや酸素側に引きつけられるため、分子全体としては、電荷の偏り(極性)が生じるのです。そのため、水分子の間にプラスとマイナス部分で、引き合う力(水素結合)が生じてしまいます。分子間の相互作用は、いわゆる分子間力(ファンデルワールス力)も存在しますが、水の場合はこの水素結合の影響が大きく、特に氷の結晶が独特で凍る際に密度が低下することなどに深く関わっています。


◇実験タイトル:大気圧で空き缶つぶし

◇サブタイトル:たいした大気圧

◇キーワード: 大気圧 蒸気圧 水の極性 水素結合

◇準備物:水槽 アルミ缶 るつぼばさみ コンロ


このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、実験材料・操作、解説の一部を非公開にしてあります。操作に一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。


コメント一覧

返信2020年5月19日 10:28 AM

基礎化学・(Ⅰ):6/2(火)遠隔授業;授業NOTE_p13-14の内容 | らくらく理科教室25/

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