UA-119493607-1 炭持てわたるもいとつきづきし | らくらく理科教室
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つれづれ化学草子 炭の巻

炭持てわたるもいとつきづきし

枕草子『春はあけぼの』清少納言

冬はつとめて 雪の降りたるは言うべきにもあらず 霜のいと白きも またさらでも いと寒きに 火など急ぎおこして 炭持てわたるも いとつきづきし 昼になりて ぬるくゆるびもていけば 火桶の火も白き灰がちになりてわろし…

「訳」冬は早朝が良い。雪が降ったことはもちろん言うまでもないことです。霜がおりて真っ白な様子も、またそうではなくても、とても寒い朝は、炭火を急いで起こし、屋敷のあちこちに配ってまわるのも、いかにも冬の風情として似つかわしいことです。ところが、昼になって暖かくなると、火桶の火も白い灰が多くなって、もうみっともないって。(訳:山田暢司)

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冬の宮廷の朝を表現 日本文学における不朽の随筆『枕草子』からの引用。厳寒の冬の朝、一度に大量の炭に火をつけて、屋敷のあちらこちらにあわただしく炭を配ってまわる様子を鋭い感性で表現しています。特に、「白き灰がちになり」は時間の経過と共に炭が灰に変わっていく様子を表し、時刻の把握に趣深い考察がなされていることもわかります。自然と人間への愛着と批判を展開した女流作家清少納言ですが、特に炭と灰に着目した彼女の感覚をちょこっと化学の眼で読み解いてみましょう。

欠かせぬ燃料源だが着火に難点 平安時代が地球規模で低温の時期にあったことは広範な研究によって明らかになっています。その事実の一端は、貴族の着用していた十二単にも表れ、寒い時代にマッチした文化であったことを伺い知ることができます。そうした寒い時代の冬に、どのように暖をとるかは、身分の貴賤を問わぬ大きな関心事でありました。炭は厳寒期に欠かせない燃料源でしたが、薪と比べ安全かつ扱いやすいため、大変重宝なものとされていたようです。しかし、炭を着火させることはなかなか難儀であったようで、それは着火用アルコール燃料のある現在でさえも、しばしば体験することでもあります。ましてや火打ち石を使って着火させていた時代です。暖をとる事にはたくさんの人の協力が必要であったことでしょう。まあもっとも、寒い朝に炭火を起こして屋敷内をかけまわるのは、清少納言、彼女自身の仕事ではなかったのでしょうが…。

炭は燃えかすにあらず 炭は木を燃やして作られているかのように言われますが、なぜ燃料としてまた燃やすのに利用できるのでしょうか?実は、炭は単なる木材の燃えかすではなく、蒸し焼きにして水分を抜き取ったあとの炭素分だけが残ったものなのです。木は主にセルロースがリグニンによって固められた作りをしていて、基本的に炭水化物Cm(H2O)nという組成になっています。有機物ですから、もし酸素が十分であれば、燃焼によって二酸化炭素CO2と水H2Oに分解され、残りは文字通り燃えかす(ミネラル分)になってしまいます。しかし、酸素を遮断して蒸し焼きにすると、水素と酸素分ばかりが抜け出て炭素分が残ることになります。材料の木の10~20%が炭として得られますが、その重量の80-95%程度が炭素だと言われています。できあがった炭は、余計なものが含まれていないので、生木のように煙も出ないし、何より大きなエネルギーが安定して得られることから、長らく有用な燃料源とされてきました。

吸着剤として 炭が生成する際に木の細胞を構成したいろいろな物質が分解され、内部がすかすか状態になるために表面積が大きくなります。活性炭の場合は、非疎水性の表面積1500m2/gを持つといわれ、低分子の有機化合物を選択吸着するのに有効です。この吸着作用は、冷蔵庫や車、タバコのフィルターの脱臭剤等、様々な用途に利用されています。特に、炭の密度が高く、内部まで多孔質体になっている備長炭や竹炭が人気を博しており、炊飯や水の浄化に利用する人も多くなっているようです。

電極として 炭は炭素からなる導電体です。酸やアルカリ中でも安定しているため、乾電池の電極にも使用されています。子どもの頃、電池を分解したことがある人も多いのではないでしょうか。中に入っていたあの黒っぽい棒がそれです。炭素が電極として使用されている理由は、その導電性と安定性にあるわけですが、炭素を成分とする炭も優れた電極になり得ます。特に、植物体を原料とする炭の場合は、蒸し焼きによってできた微細な空間に酸素を蓄積させることがでるからです。正極としてアルミホイル側から供給される電子を酸素に渡し、水酸化物イオンになるのを助ける働きをします。式で表わすと、
O2 + 2H2O + 4e→ 4OH
 炭素電極に酸素分子が高濃度に存在すれば、それだけ電気が流れやすくなることがわかります。

白き灰はアルカリ分 炭が燃えて残った白き灰はミネラル分(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの酸化物)と考えられます。その昔、これら炭の燃えかすは植物の肥料や染色のための媒染剤になりました。特にミネラルの多くは、植物色素と安定したキレート錯体を作り易いので、染色に欠かせない助剤として活用されてきたようです。灰は水に溶解させた状態(灰汁:アクと表現された)で利用されましたが、成分が酸化物なのでその水溶液はアルカリ性を示します。花や色野菜の絞り汁の色変化の簡素な実験に使われるのはよく知られるところです。また、灰は古くから洗濯の際にも使われており、特に、石鹸の誕生に関わる話が有名です。古代ローマ時代に、サポー(Sapo)の丘の神殿で、いけにえの羊を焼いて神に供える風習がありました。滴り落ちる羊の脂が木の灰にまじり、石けんのようなものが偶然にできたそうです。それが浸み込んだ土は、汚れを落とす不思議な土として大切にされ、サポー(Sapo)の丘が石けん(soap)の語源となったとか…。


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