身近な材料を用いて手軽に生物のDNAを取り出す実験です。素材として身近な野菜であるブロッコリーを使いますが、花芽が小さくたくさん集まっていて扱いやすいなどの理由でよく用いられています。
DNAとは、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の略で、DNAは生物の細胞の核の中にある分子です。その分子は非常に細い(約2 nm)のですが、長さは数㎝にもなる巨大な分子鎖を構成しているものです。DNAは、私たち人間を含め、すべての動植物を構成している細胞に含まれる細胞核の中にあります。細胞が数多く集まっている素材が、それだけDNAが濃縮した状態で得られやすいので、ブロッコリーのように花芽が集中している野菜は好都合なわけです。また、ブロッコリーの食べやすい青々とした花芽部分は、細胞分裂が活発で、まだ細胞が小さくDNAが取り出しやすいということもあります。
抽出液として洗剤を用いる理由は、細胞膜を構成する脂質を溶かして、細胞の中身が出てきやすいようにするためです。また、DNA分子鎖どうしは、同じ電荷で反発しあって水溶液中で安定して存在しています。そこに、食塩のような電解質を加えると、電荷が中和され、分子鎖が不安定になって凝縮沈殿しやすくなるのです。さらに、ろ過によって得られた成分の中のDNAが、エタノールに不溶である性質を利用します。ろ液に無水エタノールを加えると、エタノール中に糸状になって現れてくるのです。しかも、DNAは軽いのでどんどん上方に移動してくるので、繊維状の白いふかふかしたものとして分離してくるのです。分離してきたDNAの集まりは、ガラス棒などで巻き取ることもできます。巻き取ったあとは、サンプル瓶に保管することも可能です。
なお、DNAは非常にもろいので、すりこぎ操作は手短に、抽出後の操作も穏やかにすることが大切です。
「模擬授業」指導案 2021.11.16 M
「動 画」実践記録映像
日時 令和3年11月16日(火) 4校時 14:50~16:20
場所 都留文科中学校理科室
生徒 都留文科中学校第3学年1組30名
指導者 都留文科大学3年
指導教員 都留文科中学校 教諭
1.題材名 「生命の連続性」
2.題材の目標:生命を形作っている遺伝子は化学物質(DNA)であり、その構造は単純なものである。その構造と意味を理解し、関心を深めるとともに、ブロッコリーを使って実際にDNA抽出実験を行い、身近な食材にもDNAが存在することを確認する。
3.単元観:本単元では、DNAの構造や性質などを、実験を通して理解させる。また、近年遺伝子やDNAに関する研究が急速に進んでいる中で、実際に抽出実験を行うことでそれらへの関心や意欲を高めることにもつなげさせる。
4.生徒観:本学級の生徒は、理科に対して強い興味・関心をもつ児童が多い。これまで行ってきた様々な実験の中でも、様々な視点から学習に取り組む姿が見られた。しかし、自分の気づいたことや考えを自分の言葉でまとめたりする活動では少し悩んでしまう生徒も見受けられる。
5.指導観:指導に当たっては、実際にブロッコリーを用いてDNA抽出実験を行い、自分自身の目でDNAを観察する。また、実験の過程の中でなぜそのような操作を行うのかを考えさせ、主体的に実験を行えるようにする。
6.単元の指導計画(全5時間)
1 遺伝の規則性について
2 メンデルの実験について
3 DNAについての理解
4(本時) ブロッコリーのDNA抽出実験
5 ゲノムと遺伝子について
7.本時の目標:ブロッコリーのDNA抽出実験から、身近なものにもDNAが存在することを確認し、発問に対してグループで話し合い、DNAについて理解を深める。
8.本時の評価
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
・薬品の取り扱いなどを理解して、基本的な実験操作ができる。
・DNAを抽出することができる。 |
・実験からDNAの性質について考察することができる。 | ・遺伝やDNAについて関心を持ち、意欲的に実験に取り組んでいる。 |
9.準備物:ブロッコリー、100mLビーカー、500mLビーカー、乳鉢、乳棒、水、塩化ナトリウム、茶こし、ガラス棒、中性洗剤、試験管、紙、無水エタノール、ハサミ、ピペット、シャーレ
10.本時の展開(4/5)
時間
全50分 |
学習活動 | 指導上の留意点 |
導入
10分 |
1.教科書P.96を開き、前時にDNAについて学んだことを思い出し、プリントに記入する。 | 1.遺伝子は染色体の中に存在し、その本体はDNA(デオキシリボ核酸)であることを確認させる。
2.実験開始前に白衣、防護メガネを全員に着けさせる。 |
展開
25分 |
1.ブロッコリーのDNA抽出実験を行う。(当日参加予定人数によって班ごとか一人一人で行うか決める。)
【実験操作】 (1)抽出液を作る。 (2)ブロッコリーの花芽の部分を粒が見えなくなるくらいまで十分にすりつぶす。 (3)すりつぶした花芽に抽出液を入れてかき混ぜる。 (4)(3)の液体を茶こしでこす。 (5)(4)の溶液を試験管に移し、無水エタノールを入れる。 (6)析出してきたDNAを観察し、プリントの【観察】を記入する。 |
1.
・全体に演示をしながら流れを確認させる。(器具の使い方や順序のみを説明し、実験を実際には見せない。) ・塩化ナトリウム、無水エタノールを前の机に取りに来るよう指示をする。 ・机間指導を行いながら実験操作に誤りがないかを確認し、誤りがあった場合は指導する。 |
まとめ
15分 |
1.プリントの【考察】に関してグループごとに話し合い、記入する。
2.班で話し合った意見を発表して全体で共有し、DNAの性質について理解する。 3.片付けを行う。 |
2.考察と描いた絵を板書させる。
3.生ごみは燃えるゴミ袋に、その他液体は流し、器具を洗うよう指示をする。 |
【板書計画】
ブロッコリーのDNA抽出実験
【復習】 ①染色体 ②DNA 【試験管内の様子とDNAの絵】 【考察】 ①(意見・答え) ・DNAは細胞の中にあり、ブロッコリーの花芽には細胞が多く 存在し、実験に適しているから。など ②(意見・答え) ・DNAはエタノールには溶けにくく、水には溶ける。など |
「実験プリント_ブロッコリーのDNA抽出実験」
月 日 曜日 年 組 番 名前
【復習】 教科書P.96
全ての生物は、細胞の中に遺伝子を持っている。遺伝子は( )の中に存在し、( )という物質である。
【実験操作】(※白衣と防護メガネ着用 ※紙の上で実験を行う)
(1)塩化ナトリウム4.0~5.0gを100mLビーカーに入れ、水80mLを入れて溶かす。溶かし終えたら中性洗剤を少量入れ、混ぜて抽出液を作る。
(2)ブロッコリーの花芽の部分をハサミで切り、乳鉢に入れ、粒が見えなくなるくらいまで乳棒で十分にすりつぶす。
(3)すりつぶした花芽がはいっている乳鉢に抽出液を入れて乳棒でかき混ぜる。(※激しくかき混ぜない)→数分置く
(4)(3)の液体を茶こしでこして、500mLビーカーに移す。
(5)(4)の溶液を試験管に移し、無水エタノール5mLを、試験管をつたわせてゆっくり入れる。(※(4)の液体と混ざらないように)
(6)数分後DNAが析出してくるので、観察をする。
【観察:試験管内の様子と析出したDNAを描いてみよう!】
【考察】
①なぜブロッコリーの花芽の部分だけを使ったのだろうか?
②なぜ無水エタノールを使用するのか?そこから分かるDNAの性質とは?
ヒント:無水エタノールだからDNAが目に見える形で析出する。
【感想】
◇材 料
◇このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、実験材料・操作、解説の一部を非公開にしてあります。操作に一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。