• 教材や実験の開発情報

水素の代わりにグルコースを用いた燃料電池:気体水素の扱いにくさを改善した教材モデルで、次のような特徴があります。

①常温で反応:ニッケル網電極表面に、触媒としてパラジウムをメッキし反応速度を増大。

②電解質膜にセルロースチューブを使用:簡素安価な膜で水酸化物イオンの移動を抑えた。

③チューブ式中空電池セル:チューブ管内側から空気(酸素)を取り込む構造とした。さらに、正極面に純水を供給することで表面の乾燥と生成するOHの滞留を防ぎ、濃度抵抗を抑えた。

④点滴セット利用:燃料を定量的に供給し出力をコントロールすることが可能、投入燃料から得られる電力や電池の内部抵抗を算出するなど電気化学的な側面からの定量的な学習を可能とした。


「動 画」グルコース燃料電池_作成解説編

□市販のドリンクを用いての演示

「動 画」チューブ式:時間は要するがスマホ等の充電も可能

「動 画」グルコース形燃料電池の実験のアイディアを、缶コーヒーメーカーのジョージアのCMに提供。

メイキングムービーを紹介。実験室や収録に関わる苦労も垣間見ることができる楽しい動画です。

「動 画」放映されたジョージアのCM


【研修会用資料】

燃料電池教材の開発と活用~グルコースを用いて~

都留文科大学 特任教授 山田 暢司

取組みの背景

エネルギー需要の拡大や環境意識の高まりに応える形で、新しいエネルギーとしての燃料電池への関心が急速に高まっている。しかし、実験コストや教育課程(履修)上の問題等により、学校教育現場における教材化への取組みは、必ずしも順調とは言えない。そこで、取り扱いが容易・安全・安価なグルコースを燃料とする教材の開発に取り組んだ。

グルコース形燃料電池の基本構成

反応原理:アルカリ性(OH)の電解液のもとイオン伝導を利用している

負極:グルコースが電子を放出し、グルコン酸となる。

(-) C6H12O6 + 2OH→ C6H12O7 + H2O + 2e

正極:空気中の酸素が電子を受取る。

(+) 1/2O2 + H2O + 2e→ 2OH

全体:グルコースが還元剤として作用し、生成物はグルコン酸のみ。

C6H12O6 + 1/2O2 → C6H12O7

電極を消耗せず、グルコースを燃料として供給し続ければ電池として機能する燃料電池の一種。

電池としての機能:燃料電池の理論電圧

正・負極のそれぞれの標準電極電位の差

E = E(+) E(-) から求まる。

(-) C6H12O7 + H2O + 2e= C6H12O6 + 2OH

E(-) = -0.853 V

(+) 1/2O2 + H2O + 2e = 2OH

E(+) = +0.401 V

理論電圧 E  = E(+) E(-)

= 0.401 – ( – 0.853) = 1.254 V

C6H12O6 + 1/2O2 → C6H12O7    E = 1.254 V

※ΔG° = − 242 kJ/mol

電池容量 53.6 A h/kg

エネルギー密度381 WAh/kg

燃料電池の一般的な特徴:熱の発生が抑えられ電気エネルギーへの変換効率は極めて高く約83 %・制御容易で音や振動を生じない・生成物は水のみ・排気や冷却システム不要・装置全体の省力小型化が容易・移動容易…。

グルコース燃料電池の教材としての特徴

  1. 常温で反応:ニッケル網電極表面に、触媒としてパラジウムをメッキし反応速度の増大を図っている。
  2. 電解液:KOH水溶液で移動イオンはOH
  3. 電解質膜:透析用半透膜でチューブ型になっているセルロースチューブを使用。液体燃料の漏れと使用する電解質液を少量に抑えた。
  4. チューブ式中空電池セル:チューブ管内側から空気(酸素)を取り込む構造とした。さらに、正極面に純水を供給することで表面の乾燥と生成するOHの滞留を防ぎ、濃度抵抗を抑える。
  5. 点滴セット利用:燃料を定量的に供給し出力をコントロールすることが可能、投入燃料から得られる電力や電池の内部抵抗を算出するなど電気化学的な側面からの定量的な学習も。

電池の作成方法

  1. ニッケルNi金網の切り出し:Ni金網(200 mesh,φ=0.05 m/m)・引き出し線必要。アスコルビン酸による表面処理を実施する場合もある。
  2. パラジウムメッキ:PdCl2 160 g・濃塩酸5.6 mLを加えて完全に溶解しメッキ溶液を調製する。500 mLビーカー中で、炭素棒・単三乾電池・スターラー等で電解メッキを実施する簡素な方法がある。
  3. メッキ済みのNi極板をセルロースチューブ(電解質膜)を用いて、電池セルを作成する。さらに、植木鉢底用網(プラ製)を重ねて、のり巻きのようにして丸め、ビニールチューブに挿入する。 → 中空状のチューブ式電池セルの完成
  4. グルコース燃料液の調製:0 mol/L水酸化カリウムKOH水溶液にグルコースを直接溶かし、0.50 mol/Lグルコース水溶液として使用する。
  5. 点滴セットのセッテイング:点滴セット2個を上方に固定し、点滴セットAからはグルコース・KOH電解液を電極A(-)に、Bからは純水を電極B(+)の表面上に注ぎ込む。

燃料電池反応の確認・電池性能の測定

  1. 測定条件(例):負極への燃料供給は室温25℃、点滴セットにより30 drops/min(滴/分)で滴下・点滴管での一滴に含まれるグルコース量から滴下速度6×10-6 mol/s
  2. 正極への純水供給は、室温25℃、点滴セットで、電極上端より30 drops/minで滴下。表面に純水を注ぎ込むようにして供給。
  3. 電池特性(性能)の測定:sample_1
    • 各種データ:開放電圧Voc=0.370 V,短絡電流Isc=0.107 A,最適動作点160 V,33 mAでの最大出力Pmax = 5.3 mW(63μW/cm2),最大出力時の変換効率:Pmax/ΔG°Glu = 0.36 %,内部抵抗r = 7.6 Ω
    • ソーラーモータ駆動の視認:電気化学的反応をモータの動きとして十分に視認できるようになった。これまでの類似タイプの燃料電池(アスコルビン酸などの還元性有機電池等)では、電力微弱のために作動電流の小さいマイクロモータが必要なケースが多かった。

まとめ・教材としての評価・課題

この教材の特徴、工夫改良の経過、実践に向けた狙い等としては…

  1. 点滴セットにより、燃料を定量的に供給し出力をコントロールすることが可能になった。特に、テスター等の簡易測定機器を用いることで、投入燃料から得られる電力や電池の内部抵抗を算出するなど電気化学的な側面からの定量的な学習を可能にした。
  2. 電池の集積:セルを縦型にして用いることにより、複数の電池セルを集積させて空間を有効に利用し、大きめのディバイスの作動や充電などのパフォーマンスも可能となった。
  3. 授業実践でのねらい:省 略
  4. 燃料電池の生徒実験は至難と思われがちであるが、無電解メッキや点滴セットの代わりにグルコースをダイレクトに反応させる方法などの工夫により、通常授業時間内での実践を可能とする。
  5. 糖質の還元性や触媒(反応速度)、電気化学的な扱い(電力量の計算等)をすることで生物や物理分野へも学習の幅を広げ、教育課程上の制約(燃料電池を避ける傾向や履修科目の制限)をカバーできる教材となる。
  6. 実験操作がバラエティーに富んだ工作実験的な側面を持つ。メッキやセルの組み立てなど、生徒が楽しんで取り組める魅力的で優れた教材となる。
  7. 課題:塩化パラジウムの購入時に初期コストがかかり、実践グループ実験1班の実験経費は、初回分で\1200程度。ただし、ニッケル電極を再利用し大幅なコストストダウンを図り、2回目以降はグルコースと水酸化カリウムの追加分の\3程度で済む。

「参考資料」

・谷川直也, グルコース、メタノールを用いた簡易な燃料電池,化学と教育2000,48,8,542-543.

・野曽原友行,高効率・簡易燃料電池の開発 東レ理 科教育賞2006.

【発表者連絡先】〒402-8555 山梨県都留市田原3-8-1 都留文科大学


▽このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、実験材料・操作、解説の一部を非公開にしてあります。操作に一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。


コメント一覧

返信2019年6月28日 9:43 AM

講演会 | らくらく理科教室24/

[…] 自分の講演内容について、現段階では次のページにデータを蓄積しています。参考まで → コーラで電気を起こす!グルコース燃料電池 […]

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