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紅花(ベニバナ)から紅色素(カルタミン)をアルカリ塩として抽出します。その後、弱酸の遊離によって、木綿繊維に固着させます。伝統工芸の技をちょっとアレンジして化学実験として扱います。

「動 画」操作解説

□ハンカチ程度の布であれば、比較的容易に染め上げることができます。ただし、堅牢度が低く、染め布を塩基性溶液に触れさせると色落ちしてしまいます。

「解 説」

1.  水に難溶性のフェノールをアルカリ塩として抽出する:ベニバナには、水溶性の黄色色素(※サフロールイエロー:Safflower Yellow)と脂溶性の赤系色素カルタミン(カーサミン)が含まれ、ベニバナ染めといった場合は、後者の紅色素カルタミンによる染色を指します。紅色素カルタミンは、分子内にフェノール性ヒドロキシ基を含む共役系構造をたくさん持つ(ポリフェノールの一種)ので、炭酸カリウム水溶液を加えるとカリウム塩を形成し水溶液に溶出してくるのです。いったん、色素を水溶性にして抽出するわけです。

□-OH + K ⇄ □-OK + H …①

フェノール   フェノキシド

(水に難溶)    (水溶性)   ※右方向への反応が進行

なお、このフェノシキドの際の水溶液は、暗褐色を呈しています。

※黄色色素(サフラワーイエロー)も、媒染剤を用いた染色に用いられる。

2.  酸の遊離を利用して繊維への固着をはかる:アルカリ塩として抽出したカルタミンにクエン酸が加わると、水素イオンHが増大し、反応は左へ進行して元の脂溶性の色素にもどります。ポリフェノール類で、クエン酸よりも弱い酸であるカルタミンが遊離してくるのです。カルタミンは、水溶液中で不安定になり、水に不溶の木綿(セルロース)に引き寄せられ、繊維層に固着しやすくなります。酸性下のカルタミンは鮮やかな紅色となり、特に木綿に固着すると濃い桃色、ショッキングピンクを呈するようになるのです。

なお、動画中のクエン酸添加の際の発泡ですが、これは二酸化炭素の遊離によるものです。

炭酸カリウムは水溶液中で電離し、形式的には次のように記述できます。

K2CO3→ 2K+ + CO32-

しかし、CO32-は、加水分解され

CO32- + H2O→ HCO3+ OH-  となって、水溶液はアルカリ性となっています。

そこにクエン酸が加わると中和反応が起こり、二酸化炭素の発泡が見られるのです。

H+ + HCO3→ H2CO3→ H2O + CO2

実際には、まず炭酸カリウムがこの反応によって中和され、その後ポリフェノールであるカルタミンのフェノキシド部が中和されると考えられます。二酸化炭素の発泡停止をみて、やや過剰に加えたクエン酸によりフェノール部位が復活、色素遊離が完了するとみなせるのです。

2.  最古級の繊維染色技術:素材となるベニバナは、中東原産で古くはエジプト第六王朝時代の碑文にその記述があり、繊維染色としては世界最古級の技術です。日本へは推古天皇期(594-626年)にシルクロードを経て伝えられたとされますが、最近の考古資料によると、伝来時期はかなりさかのぼるようです。伝来以降の万葉時代はベニバナは「くれなゐ(紅)」として、数首の歌にも詠み込まれています。茎の先端に付いた花を摘むことから、末摘花(すえつむばな)とも呼ばれますが、こちらは源氏物語の登場人物の名で広く知られています。ベニバナ色素は、古来より衣料はもちろん、化粧用の紅としても重宝され、その価格は一時金を上回る時代もあったそうです。江戸初期には、現在の山形県最上地方のベニバナが、海船で酒田~敦賀へと、大津を経て京へと運ばれていました。このルートは、いわゆる「紅の道」とも呼ぶべきもので、米沢藩の上杉鷹山は、ベニバナ栽培を奨励して傾きかけた米沢藩の財政立て直しに大いに貢献し、その功績は現在でも高く評価されています。なお、ベニバナは、現在の山形県の県花となっています。

□多繊交織布:繊維の種類による色のバリエーションの豊富さがわかる

「動 画」授業実践記録

□世界最古の染色法とも言われ、日本古来の伝統染色においても特筆すべき存在ともなっています。二種類の色素が含まれていて、それぞれ染色の作業も染色作品の出来映えも異なるところも魅力的です。

□スタジオジブリ制作アニメ「おもひでぽろぽろ」にもベニバナ染めが登場します。


◇このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、実験材料・操作、解説の一部を非公開にしてあります。操作に一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。




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