無色透明液が突然濃い紫色になります。濃度調製した溶液が時間差でつぎつぎ変化していく「時計反応」の名で知られているものです。
「動 画」楽しい演示実験_時計に見立てて時間をコントロール!
□海外の学生がトライしている映像を見たことがあって、それを再現してみました。時計の0時からスタートして、亜硫酸水素イオン [HSO3–] = 0.40 mol/Lを20 mLを1時間ごと水4 mLで薄めていって、反応速度を落としています。なお、ヨウ素酸イオン IO3– の方は、0.08 mol/L・20 mLで固定です。
「動 画」反応が観察できるまでをカウントダウン!
□ヨウ素酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウムが複雑な反応を経て、最終的にはヨウ素デンプン反応の呈色が見られます。反応物の濃度を調整することで反応時間を予測したり、逆に反応時間から濃度を推定することもできます。
「動 画」実験操作解説編_学生実験
□可溶性デンプンは事前に熱湯でよく溶かし、いったん室温に戻してA液と同温にしてから使用します。また、B液を加える操作は、同時に行う人数が必要とはなりますが、時間をずらして時間補正するとよいでしょう。なお、振り混ぜ方に反応の現れ方がことなるので、可能な限り条件をそろえることも必要です。
「解 説」
1. 複雑な酸化還元反応:一定時間をおいて劇的に色の変化が見られることで知られる反応ですが、起こっている化学変化は実に複雑です。化学反応としては…
2KIO3 + 5NaHSO3 → 3NaHSO4 + Na2SO4 + K2SO4 + I2 + H2O
KIO3 と5NaHSO3が2:5で反応していますが、酸化還元反応としては次の3つの反応が同時に起こっています。
IO3– + 3HSO3– → I– + 3SO42- + 3H+…①
(+5) (+4) (-1) (+6)
5I– + IO3– + 6H+ → 3I2 + 3H2O…②
(-1) (+5) (0)
I2 + HSO3– + H2O → 2I– + SO42- + 3H+ …③
(0) (+4) (-1) (+6)
まず、亜硫酸水素イオン HSO3– がヨウ素酸イオン IO3– を還元してヨウ化物イオン I– が生成(①)。同時にまだ反応していないヨウ素酸イオン IO3– がヨウ化物イオン I– を酸化し、ヨウ素 I2 を生成(②)する反応が起こります。ここで、生成したヨウ素 I2 がすぐにデンプンと呈色反応を起こすかと思いきや、残っている亜硫酸水素イオン HSO3– がせっかく生成してきたヨウ素 I2 まで還元(③)してしまうという、ややこしい反応が同時に進行しているのです。結局、亜硫酸水素イオン HSO3– がすべて消費されてヨウ素デンプン反応が見られるまで、一定の時間を要するというメカニズムです。
2. 時計反応:[HSO3–]を低く調整すると、ヨウ素デンプン反応による紫色の呈色が視認できるまで、一定の時間を要する点がポイントです。[HSO3–]が反応全体の速度に大きく影響する律速段階に関わっているのです。そこで、ヨウ素デンプン反応が視認できるまでの時間と[HSO3–]との相関を求め、その反応速度をv、反応速度定数kとおくと、反応速度式は次の通り…
v=k[HSO3–]
このように、ゆっくりした反応を視覚的に確認できる反応を、時計反応と呼ぶことがあります。通常、化学反応は、反応に関わる物質の濃度が高くなれば、反応速度が大きくなります。この実験の化学変化は、イオンの反応としては複雑ですが、亜硫酸水素イオンの濃度[HSO3–]と色の変化までの時間の逆数〔/s〕(速度)をグラフ化してみると見事な相関が見られます。亜硫酸水素ナトリウムの濃度が、全体の反応を律すると考えて良いわけです。
◇実験タイトル:ゆっくり進行する「時計反応
◇サブタイトル:ファイナルカウントダウン_本当け?
◇キーワード:ヨウ素デンプン反応 反応速度 酸化還元 化学平衡 振動反応
◇使用試薬:硫酸水素ナトリウム
◇このブログで発信する情報は、取扱いに注意を要する内容を含んでおり、解説の一部を非公開にしてあります。操作には一定のスキル・環境を要しますので、記事や映像を見ただけで実験を行うことは絶対(!)にしないで下さい。詳細は、次の3書(管理者の単著作物)でも扱っているものが多いので参考にして下さい。